本エントリーはJava Advent Calendar 2025の4日目です。昨日はAsanoさん (@mackey0225) の読書感想文 : 『Javaの10年』でした。
11月15日に開催されたJJUG CCC 2025 FallでLazy Constantについてプレゼンしてきました。資料はこちら。
Lazy Constantはfinalフィールドを遅延初期化させるためのAPIで、Java 26ではJEP 526で提案されています。
JEP 526: Lazy Constants (Second Preview)
LazyConstantインタフェース自体は単機能で使い方も簡単なのですが、その導入背景は理解しておいた方がよいと思います。
なぜLazy Constant?
Javaでも宣言的なプログラミングスタイルが増えてきたり、並列処理が当たり前に使われるようになってきて、イミュータブル性の重要度が増しています。
また、アーキテクチャー的にもDDDの導入で値クラスを使うことが多くなっています。もちろん、値クラスはイミュータブルです。
そこで、イミュータブルなクラスを作ることを考えるわけですが、イミュータブルなクラスの条件の1つにフィールドはすべてfinalにするということがあります。
ここで困るのが、フィールドによっては初期化に時間がかかるものがあることです。たとえば、通信やファイル読み込みなどの外部リソースにアクセスする場合などがこれに相当します。
時間のかかるフィールドの初期化がアプリケーションの起動時にまとまって発生してしまうと、ただでさえいろいろやらなければならない起動時ですが、このようなフィールの初期化のためにさらに起動時間がかかるということになってしまいます。
通常のフィールドであれば、実際にフィールドを使用する時まで初期化を遅らせることができます。しかし、finalフィールドはオブジェクトの生成時にしか初期化することができません。
そこで登場するのがfinalフィールドの遅延初期化をサポートするLazy Constantです。
Lazy Constantとは
Lazy Constantは値を1つだけ保持するコンテナのようなものです。
そして、保持する値の初期化は実際に使用する時まで遅延させます。もちろん、スレッドセーフなので並列処理でも使えます。
値の初期化を行うにはSupplierインタフェースを使用します。ようするに、引数なし、戻り値ありのラムダ式ですね。
重要なことが、JVMの最適化を享受しやすい実装になっていることです。LazyConstantオブジェクトから値を取得するときにはgetメソッドを使用する必要があり、しかもgetメソッド内では値が初期化されたかどうかをチェックする必要があります。これらのオーバーヘッドがあるにも関わらず、インライン化などの最適化を行いやすくなっており、最適化後は直接変数にアクセスするのとパフォーマンスが変わらなくなります。
では、このような特徴を持つLazyConstantを使ってみましょう。
LazyConstantの使い方
LazyConstantはインタフェースで、パッケージはjava.langです。ですから、import文は必要ありません。
メソッドは4つだけ。しかも、ほぼofメソッドとgetメソッドしか使いません。
- static LazyConstant<T> of(Supplier<T> computingFunction) : LazyConstantオブジェクトのファクトリーメソッド
- T get() : 値を取得するためのメソッド
ofメソッドでLazyConstantオブジェクトを生成して、getメソッドで値を取得するというだけです。
たとえば、Consumerクラスで遅延初期化させたいHeavyクラスのオブジェクがあるとしましょう。このオブジェクトをLazyConstantインタフェースを使用して遅延初期化させてみます。
LazyConstantインタフェースのフィールドをheavyConstantとしてfinalで定義します。
そして、実際にheavyConstantフィールドが保持する値を使用するのはconsumeメソッドだとします。
public class Consumer {
private final LazyConstant<Heavy> heavyConstant
= LazyConstant.of(() -> new Heavy());
public void consume() {
// 初回のgetメソッドコール時に
// ofメソッドの引数で指定したラムダ式を実行し値を初期化
// 次からは初期化後の値を取得
var h = heavy.get();
IO.println(h);
// heavyを使用した処理...
}
}
ofメソッドの引数のラムダ式では、Heavyオブジェクトの生成を行っています。オブジェクトの生成だけなのであれば、コンストラクター参照を使用してHeavy::newでも大丈夫です。
そして、heavyフィールドが保持している値を取得するためにgetメソッドを使用します。getメソッドの初回コール時にofメソッドの引数で指定されたラムダ式が実行されます。2回目以降は初期化された値が返ります。
では、このConsumerクラスを使ってみましょう。
void main() {
var consumer = new Consumer();
consumer.consume();
consumer.consume();
consumer.consume();
}
Heavyクラスのコンストラクターでは初期化しているというメッセージを標準出力に表示しています。
LazyConstantインタフェースはJava 26ではPreview APIなので、コンパイルや実行には--enable-previewが必要です。
> java --enable-preview .\Main.java ノート: C:\test\SomeData.javaはJava SE 26のプレビュー機能を使用します。 ノート: 詳細は、-Xlint:previewオプションを指定して再コンパイルしてください。 Heavy Initializing Heavy@2002fc1d Heavy@2002fc1d Heavy@2002fc1d >
コンストラクターがコールされているのは1度だけで、それ以降はgetメソッドで返る値は同じオブジェクトになっていることがわかります。
初期化にデータが必要な場合
遅延させたい値の初期化に何らかのデータが必要になる場合はどうでしょう。
初期化にSupplierインタフェースを使うので、引数で渡すことはできません。しかし、final変数であればラムダ式の外側の変数も参照できるので次のように書くこともできます。
public Consumer(final String filename) {
heavyConstant = LazyConstant.of(() -> new Heavy(filename));
}
Heavyクラスのコンストラクターでは引数の文字列を表示させるようにしてみました。また、mainメソッドでも文字列を渡しています。
void main() {
var consumer = new Consumer("Main.java");
consumer.consume();
consumer.consume();
consumer.consume();
}
では、実行してみましょう。
> java --enable-preview .\Main.java ノート: C:\test\SomeData.javaはJava SE 26のプレビュー機能を使用します。 ノート: 詳細は、-Xlint:previewオプションを指定して再コンパイルしてください。 Heavy Initializing: Main.java Heavy@2002fc1d Heavy@2002fc1d Heavy@2002fc1d >
このようにラムダ式を書いた時点でのfinal変数であるfilename変数をキャプチャーし、ラムダ式の実行時に使用していることが分かります。
初期化時の例外
外部リソースにアクセスするから遅延初期化をしたいということはけっこうあると思います。この時に困るのが例外です。
外部リソースへのアクセスはどうしても例外が発生しがちです。こんな時にどうすればよいのか?
考えられるのは以下の3つの選択肢ではないでしょうか。これについては特にJEPで触れられていないので、さくらばだったらこうするという方法です。
- ラムダ式でnullを返す
- 例外をRuntimeException例外にくるんで、スローする
- ラムダ式の返り値をEitherもしくはResultなどにする
1つ目の方法は初期化のためのラムダ式で例外が発生した時に、nullを返すというものです。ラムダ式でnullを返すと、getメソッドの内部でNullPointerException例外がスローされます。
このNullPointerException例外をキャッチするという方法です。
この方法は簡単でよいのですが、残念ながら原因となる例外が隠されてしまい、スタックトレースなども引き継ぐことができません。このため、NullPointerException例外が発生したとしても、原因を調べるのが難しくなってしまいます。
2つ目のRuntimeException例外を使う方法は、初期化のためのラムダ式のSupplierインタフェースが検査例外をスローできないからです。これはjava.util.functionパッケージの他のインタフェースも同じですね。
そこで、何らかの例外が発生したらRuntimeException例外のcauseにセットして、RuntimeException例外をスローするという方法です。
この方法はスローするRuntimeException例外をドキュメント化しておかないと例外処理を忘れがちという問題があります。
少なくとも、マルチスレッドで使用している場合のUncaughtExceptionにならないようにしなくてはいけません。
この点に注意すれば、まぁ使える方法ではないかなと思います。
最後のEitherもしくはResultを使う方法は、例外を値として保存しておいて、ラムダ式の返り値として返すという方法です。
たとえば、Eitherであればleftとrightの2つの値を保持できるようになっており、正常に初期化できた時はleftに保持させ、例外が発生した時にはrightに保持させます。そして、このEitherオブジェクトをラムダ式の返り値として返します。
このため、LazyConstantインタフェースのgetメソッドの戻り値はEitherになり、leftとrightのそれぞれの場合の処理を記述します。
しかし、これだとLazyConstantというコンテナにEitherというコンテナを保持させ、実際に使うにはgetしてgetしなければならないというちょっとめんどくさいことになってしまいます。
こう考えると、finalフィールドのためにEitherを使うのはちょっとやりすぎではないかなと、さくらばは思うわけです。
ということで、さくらば的には2つ目のRuntimeException例外を使うかなぁ...
コレクションの遅延初期化
LazyConstantインタフェースではコレクションを初期化するのはちょっと難しいのですが、ListインタフェースとMapインタフェースに遅延初期化するためのメソッドが追加されています。
- static List<E> List.ofLazy(int size, IntFunction<? extends E> computingFunction)
- static Map<K, V> Map.ofLazy(Set<? extends K> keys, Function<? super K, ? extends V> computingFunction)
たとえば、0から9までを保持するリストを遅延初期化させるのであれば、次のように記述します。
private final List<Integer> nums = List.ofLazy(10, i -> i);
ofLazyメソッドを使用して生成したコレクションは、実際にそのコレクションにアクセスした時にofLazyメソッドの引数で指定されたラムダ式を実行して初期化を行います。
その他のメソッド
使うことはほぼないとは思いますが、LazyConstantインタフェースの残りの2つのメソッドについても簡単に触れておきましょう。
boolean isInitialized()
メソッド名で分かると思いますが、保持している値が初期化が行われたかどうか、つまりgetメソッドが1度でもコールされたかどうかを判定するためのメソッドです。初期化されて入ればtrue、初期化されていなければfalseが返ります。
T orElse(T other)
保持している値が初期化されていればその値を返し、初期化されていなければ引数のotherを返します。
注意しなければいけないのは、orElseメソッドの内部ではgetメソッドはコールされません。つまり、値が初期化されていなくても、初期化することはありません。
くり返しますが、初期化されていない場合はotherを返します。
まとめ
LazyConstantインタフェースはfinalフィールドを遅延初期化させたい場合に使用するインタフェースです。
それほど使うインタフェースではないとは思いますが、ロガーをfinalフィールドで定義したい場合などに使えます。
遅延初期化の機能だけに注目すれば、finalでないフィールドに対しても使うことが可能です。
とはいうものの、遅延初期化はそれなりにオーバーヘッドがあるので、遅延初期化を必要としないフィールドに対して使うのはやりすぎです。
遅延処理を必要とする場合に使うようにしましょう。
使い方だけで、意外に長くなってしまったので、LazyConstantインタフェースでの遅延処理の実装について次回説明することにします。

